*舘鼻さんのお話は二回連載。
第一回:六本木アートカレッジ(2013.11.23)で聞いたよ
第二回:ギャリーでインタビューしてきたよ
11月23日の六本木アートカレッジ。
ある部屋で、お客さんが入りきらず、立ち見がでたり、ステージ近くに椅子なしで座りだす客もいたりするほど、熱気に満ちていた。
その時間のスピーカーは、レディガガの靴を作ることで有名な舘鼻則孝氏だった。
日本人のアイデンティティを武器に海外で活躍する一人だ。
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「日本文化をもっと海外へ」多くの人が言う言葉だ。
先ず反対しない、応援を受ける。なのにそれで成功しているファッションブランドはあまり多くない。
また、多くの人が「着物の柄をバッグにしたら良いのでは」「現代的な着物ドレスを作れば」という。でも、アメリカで箸をかんざしに使われている姿をみると、違和感を感じる日本人も少なくない。
彼は、何が違ったのだろう??
高校生のとき美大予備校でファッションデザイナーになると決めたのは、得意だと思っていた絵が得意ではないと分かったからだそうだ。作品が出来ては写真を撮り、手作り名刺を刷り青山にある店を回ってスタッフに見せていた。
世界を舞台に活躍するファッションデザイナーになりたいという理由で多くの学生が留学を志すが、舘鼻氏は違った。大学入学前に自分のアイデンティティは日本人だと意識し、それを武器にしたかったので、伝統工芸が学べる日本芸術大学を選んだ。
入学し工芸課で友禅染等の染色を学びながら、自分のスタイルを模索しだす。
表現したいものを自問した結果、「新しい、アバンギャルド」なメッセージを打ち出したいと考えつき、明治時代のアバンギャルドを考えて花魁を思いつく。
吉原遊郭の中で位が高く、豪商の相手しかしない花魁達は、時代の中でも輝く存在だった。
あるとき、館鼻氏はカラスの模様の着物を身につけている花魁の写真を見つけ、なぜこの人がカラスを選んだのか考えた。欧州で骸骨が死を表すように、カラスは日本では死を表すのだ。今は流行の一部だが、骸骨は元来体制「死/悪/批判」の意味がこめられていた。彼女達も悪いものを身につける事で「悪女」としての前衛的なプライドを見せていたと、館鼻氏は考え、カラス柄の着物を自ら染色し、カラス柄のぽっくりも作った。
卒業制作で作った靴も、もちろん花魁に影響を受けた。とてつもなく高いぽっくりと現代のブーツをかけあわせたのだ。
大学教授には全く評価されなかったこの奇抜な靴は、彼の自信作だった。短い自己紹介をつけて、世界中のファッション関係者に100通程メールを送ったという。そのうち返信があったのは、たった3通。その内一人がレディガガのスタイリストで、一週間後の来日にあわせて準備してほしいと連絡がきた。
「日本の文化を打ち出して作品を作る。この、何が珍しいのか?普通の事ではないか」といいつつ、「他にいない」ことも分かっている。外国文化を吸収する、編集するのが上手い日本人は、自分達のものをないがしろにしていないか。
最近、自分の作品がメトロポリタン美術館に収蔵された理由を、本人はこう分析する。「着物、下駄の延長上で新たなファッションとして刻まれたものを海外のひとが見たと思ったから。」それが、何を残して何を後世に伝えるべきかと考えているキュレーターに刺さった。
舘鼻氏の話にとても感動しつつ、同時に日本人であるアイデンティティを武器に、という動機自体は珍しくないとも感じた。
それを実現したのは、自分のアイデンティティを考え抜いて作り上げただけでなく、どれだけ否定されようともめげなかったその行動力にあるのではないだろうか。
「自分のモノサシを持ってみる機会を作る。流行っているからいいのではなくて、自分のモノサシを持つ。自分の目で見ていく。」
高校生の時に名刺と作品写真を持って回ったり、卒業制作を否定されてもめげずに世界中のひとに作品写真を送っていたりしたのは、「自分のモノサシ」を信じていたからこその行動だったのだ。
別のシーンでこんな言葉もあった。「デッサンがとても苦手でした。でも浪人中200枚も書いていれば、上手くなる訳です」。「失敗で泊めるとそこで失敗だけれど、成功するまでやればいいだけ」。
レディガガや世界を魅了しているシューズデザイナーは、ただ急にスマートに脚光を浴びたわけではない。自分のモノサシで文化を見て、実現する行動力があった。
2013年11月、館鼻氏は “POCKET”という若手アーティストの作品を展示するギャラリーをオープンした。メッセージを世の中に提案しつづけるアーティストの発信の場を作っている。
館鼻さんの場合、ただ日本文化をそのまま出すだけではない。前衛的な形にしたからこそ、海外の人にも受けた。私たちは、自分のモノサシを信じて行動できているだろうか。
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舘鼻則孝
1985年、神奈川県生まれ。東京芸術大学卒業後、09年秋に「ノリタカ・タテハナ」をスタート。年に1度コレクションを発表している。その靴は、レディー・ガガが愛用していることでも有名。高校時代からの愛用ブランドは「コムデギャルソン」と「ヨウジヤマモト」。「世界で認められている服しか着ない」
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